大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(ネ)1365号 判決 2000年8月07日

控訴人

株式会社三条中央自動車学校

右代表者代表取締役

関存

控訴人

株式会社宮内モーターサービス

右代表者代表取締役

高田俊

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

高野毅

被控訴人

西潟信雄

右被控訴人訴訟代理人弁護士

片桐敏栄

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  原判決主文一項を次のように変更する。

被控訴人と控訴人株式会社三条中央自動車学校との間において、被控訴人が控訴人株式会社三条中央自動車学校の額面普通株式(額面一株一万円)一七株を有する株主であることを確認する。

三  原判決主文二項に「一七株を交付せよ。」とあるのを「一七株の株券を交付せよ。」に、同五項に「一五株を交付せよ。」とあるのを「一五株の株券を交付せよ。」にそれぞれ訂正する。

四  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人らの控訴の趣旨

1  原判決中控訴人ら敗訴の各部分をいずれも取り消す。

2  被控訴人の控訴人らに対する各請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人の本訴請求の趣旨

1  被控訴人と控訴人株式会社三条中央自動車学校(以下「控訴人三条中央」という。)との間において、被控訴人が控訴人三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)一七株を有する株主であることを確認する。(この請求の趣旨について、原判決は、被控訴人の請求を、被控訴人が控訴人三条中央の株式六一株を有する株主であることの確認を求めていると解すべきものとしているが、被控訴人の当審における主張等からして、右の請求において、被控訴人は、控訴人三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)一七株を有する株主であることの確認を求めているにとどまるものであることは明らかである。)

2  控訴人三条中央は、被控訴人に対し、控訴人三条中央の額面普通株式(額面一株一万円)一七株の株券を交付せよ。

3  被控訴人と控訴人株式会社宮内モーターサービス(以下「控訴人宮内モーター」という。)との間において、被控訴人が控訴人宮内モーターの額面普通株式(額面一株一万円)一五株を有する株主であることを確認する。

4  控訴人宮内モーターは、被控訴人に対し、控訴人宮内モーターの額面普通株式(額面一株一万円)一五株の株券を交付せよ。

5  控訴人宮内モーターが平成七年一二月七日に行った額面普通株式三〇〇株の新株発行が無効であることを確認する。

6  控訴人宮内モーターが平成七年一二月一三日に行った額面普通株式六〇〇株の新株発行が無効であることを確認する。

第二  事案の概要

一  原判決の記載の引用

本件事案の概要及び関係当事者の主張は、次項のとおり訂正を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の項に記載されたとおりである。ただし、被控訴人は、原審においては、控訴人三条中央が平成七年一二月一三日に行った額面普通株式六〇〇株の新株発行(本件新株発行(一))が無効であることの確認をも求めていたところ、原判決中の右の請求を棄却した部分に対しては、被控訴人からの控訴の申立てがないので、右の請求を除いた被控訴人の各請求(前記の被控訴人の本訴請求の趣旨に掲げた各請求)に関する部分に限って、原判決の右記載を引用することとする。なお、被控訴人が前記の本訴請求の趣旨においてその株式を有する株主であることの確認等を求めている控訴人三条中央の株式一七株及び控訴人宮内モーターの株式一五株は、それぞれその控訴人両会社の設立当初、被控訴人の父である西潟洋一が設立発起人として引き受けた株式をいうものである。

二  原判決の記載の訂正

原判決八頁二行目の「西潟洋一の死亡」の次に「(昭和五四年一一月二八日)」を加え、同一〇頁九行目、一〇行目及び末行にそれぞれ「原告」とあるのをいずれも「西潟洋一」に改める。

第三  当裁判所の判断

一  原判決の説示の引用

当裁判所も被控訴人が、控訴人三条中央の額面普通株式一七株を有し、また、控訴人宮内モーターの額面普通株式一五株を有する各株主であり、さらに、控訴人宮内モーターが平成七年一二月七日及び同月一三日にそれぞれ行った各新株の発行(本件新株発行(二)、(三))はいずれも無効なものであると判断するが、その理由は、次項以下のとおり訂正を加えるほかは、原判決がその「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」の項で説示するとおりであるから、この説示(ただし、本件新株発行(一)の効力に関する部分を除く。)を引用する。

二  原判決の説示の訂正

1  原判決一四頁五行目の「新会社」の次に「控訴人三条中央(設立時の商号は「株式会社三条モーターサービス」)及び控訴人宮内モーター」を加え、同二一頁末行から二二頁一行目にかけての「三〇〇万円」を「一〇〇万円」に改め、同二五頁六行目から八行目まで及び同二六頁一行目から三行目までをそれぞれ削除し、同二七頁五行目の「何倍にも相当すること、」を「何倍にも相当するから、控訴人両社の出資金合計三二万円程度の金額を自ら負担できないような経済状態にあったものとは考え難いこと、」に、同二八頁二行目から四行目までを「これは、長岡モーターの出資者ら四名株に内山由蔵が税理士の反町秀司に諮った上で(証人丸山久作)、設立当初から両社の代表者に就任しその運営にも携わることになった西潟洋一に対し、同人の志気を高める目的で、あるいは、同人に対する報奨の趣旨で、右の出資金の合計額三二万円の支払を請求しないまま両社の株主としての地位を与えることとしたものと推認できるところである。」にそれぞれ改める。

2  原判決二八頁五行目以下の四の項の記載を次のように改める。

「四1  被控訴人が控訴人宮内モーターの額面普通株式一五株の株主であり、また、同社において株式の譲渡には取締役会の承認が必要とされていることは、前記一の5及び三で認定したとおりである。そうすると、被控訴人は本件新株発行(二)及び(三)が行われた当時その新株の引受権を有していたことは明らかである(商法二八〇条の五の二本文)ところ、控訴人宮内モーターは、右各新株発行に際し、商法二八〇条の五第一項に規定されている事項についての通知(割当の通知)をしなかったことは前記認定のとおりであるから、本件新株発行(二)及び(三)が株主である被控訴人の新株引受権を無視してなされたものであることは明らかである。

2 さらに、証拠(甲三の一ないし七、乙一一、控訴人宮内モーター代表者本人)によれば、本件新株発行(二)及び(三)は、商法の改正に伴い、控訴人宮内モーターが平成八年三月三一日までに資本金の額を一〇〇〇万円以上に増資する必要に迫られたことから行われたものであるが、同社の代表者である関存が控訴人三条中央の代表者であった土佐久夫らと相談の上、当時の控訴人宮内モーターの株主は長岡モーターのほかは同人らのみであるものとして、長岡モーター及び同人らの間でほしいままに新株の引受数を割り振るという方法で行ったものであることが認められる。しかしながら、控訴人宮内モーターの設立当初、右の土佐久夫は同社の株主とはなっておらず、右の関存の父である関勇次も同社の株式数一〇〇株のうち五株の株主となったにすぎない(乙三)のに対し、被控訴人の父の西潟洋一は右の時点で一五株の株主となっていたことは前記認定のとおりであり、したがって、右の本件各新株発行の当時においても、右の土佐久夫が同社の株主であったとすることには疑問があり、また、被控訴人は、右の関存らと対比してもより多数の株式を保有する大株主であったこととなるのである。ところが、本件各新株発行は、このような立場にある被控訴人の株主としての新株引受権を無視して行われ、しかも、被控訴人は、控訴人三条中央の増資に関するやりとりの中で、右の関存から控訴人宮内モーターでは増資の予定がないものと説明されたため、本件新株発行(二)及び(三)が行われることを知り得ない立場に置かれていたものと考えられることは前記のとおりである。そうすると、右の各新株発行は、右のとおり控訴人宮内モーターの株式のうち相当数の株式を保有する株主であった被控訴人の新株引受権を無視するとともに、むしろ被控訴人に対してはこれを秘匿する形で、右の関存らの専断によって行われたものというべきであり、したがって、その瑕疵の程度は看過できないものであって、本件新株発行(二)及び(三)はいずれも無効なものといわざるを得ないものと考えられる。」

三  結論

以上の次第で、被控訴人の本訴各請求は、いずれも理由があるものというべきである。もっとも、原判決は、前記のとおり、被控訴人の控訴人三条中央に対する株主の地位の確認請求の趣旨を、同社の設立時に発行された株式一〇〇株のうち被控訴人に帰属することとなった一七株のほかに、平成七年一二月一三日の同社の増資に際して被控訴人が引き受けた四四株をも併せた合計六一株について被控訴人がその株主の地位にあることの確認を求めているものとし、この請求を全て認容する旨の判決をしたが、被控訴人の主張によれば、本訴においては、被控訴人は右の設立時に発行された一〇〇株のうち被控訴人に帰属することとなった一七株分に限って被控訴人がその株主の地位にあることの確認を求めていることが明らかなものというべきである。よって、この被控訴人の本訴請求の内容に従って原判決を変更するとともに、控訴人らの本件各控訴には理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 合田かつ子 裁判官 宇田川基)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例